このページでは、【イノラス®配合経腸用液】のインタビューフォームをもとに、重要項目の整理をしていきます。
これらの情報を活用する際には、必ず元の文献を確認してください。
【出典】医薬品インタビューフォーム イノラス®配合経腸用液 改訂第2版
コンテンツ
販売名
和名
イノラス®配合経腸用液
洋名
ENORAS® Liquid for Enteral Use
名前の由来
Enteral Nutrition + Oral Nutritional Supplements
ONS(経口的栄養補給)にも適した経腸栄養剤
概要
開発の経緯
経腸栄養剤は、手術後患者をはじめ、長期にわたり経口的食事摂取が困難な患者の栄養補給に広く使用されている。
しかしながら、これらの経腸栄養剤は、開発当時の栄養学的知見に基づき、成人標準量を1,600kcal/日前後に配合設計されている。
そのため、活動性が低く、1,000kcal/日前後の維持エネルギー量で長期に栄養管理されている患者においては、一部ビタミン・微量元素等の欠乏症が認められている。
また「第6次改定日本人の栄養所要量(2000年)」で規定された新たな必須微量栄養素については、経腸栄養剤への無配合による欠乏症が報告されている。
臨床現場では、これら栄養管理上の課題のほか、
「誤嚥リスクを下げるための1回投与量の減量」
「投与時間短縮によるリハビリテーション等の時間確保」
「栄養治療を目的としたONS(Oral Nutritional Supplements:経口的栄養補給)への利用」
等のニーズがあり、より少量で効率的に栄養素・エネルギーを補給できる経腸栄養剤が求められている。
「イノラス®配合経腸用液」は、これらの課題や医療関係者、患者・介護者のニーズを踏まえ、成人標準量を900kcal/日とし、最新の栄養学的知見に基づき配合設計した高濃度(1.6kcal/mL)の半消化態経腸栄養剤(経口・経管両用)である。
製造販売承認を2019年3月に取得した。
特性と有用性
- 本剤は高濃度(1.6kcal/mL)の半消化態経腸栄養剤である。
- 維持エネルギー量の低い患者の栄養管理にも配慮し、1パウチ300kcalの投与で1日に必要なビタミン・微量元素の約1/3を充足できるように配合設計した。
- 最新の栄養学的知見に基づき、ヨウ素・セレン・クロム・モリブデンのほか、カルニチン・コリンを配合した。
- たん白質源には濃縮乳たん白質とカゼインナトリウムを配合、1パウチ300kcalあたり、たん白質量を12gとした。
- 脂肪源にはMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)のほか、ω3系脂肪酸の供給源としてシソ油と魚油を配合、ω3:ω6を1:3に設定した。
- 糖質源に精製白糖は使用せず、デキストリンのみを配合した。
- 服薬アドヒアランスに配慮し、複数のフレーバーを用意した。
効果・効能
一般に、手術後患者の栄養保持に用いることができるが、特に長期にわたり、経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給に使用する。
≪効能又は効果に関連する使用上の注意≫
経口食により十分な栄養摂取が可能となった場合には、速やかに経口食にきりかえること。
(解説)
治療の経過をみて嚥下可能と判断された場合には、回復後の食生活を考慮し、食べものを飲み込むトレーニングを行う必要がある。また、経口食による栄養摂取が不十分な場合は、本剤と経口食との併用を考慮する必要がある。
用法・用量
通常、成人標準量として1日562.5~937.5 mL(900~1,500 kcal)を経管又は経口投与する。
経管投与の投与速度は50~400 mL/時間とし、持続的又は1日数回に分けて投与する。
経口投与は1日1回又は数回に分けて投与する。
なお、年齢、体重、症状により投与量、投与速度を適宜増減する。
≪用法及び用量に関連する使用上の注意≫
1)本剤は、経腸栄養剤であるため、静脈内へは投与しないこと。
2)本剤の投与初期には低速度から投与を開始すること。
(解説)
1) 本剤は、誤って静脈内に投与してしまうと血管が詰まるおそれがある。 万が一誤って投与してしまった場合には、細胞外液補充液の大量投与と透析によってできるだけ洗い流したり、塞栓予防のため、抗血液凝固療法の禁忌疾患がないことを確認し、ヘパリンを投与するといった処置を行う。
安全性
禁忌
- 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
(解説) 過去に本剤又は本剤に配合された成分の投与で過敏症を起こした経験のある患者は、本剤の投与により、ショック、アナフィラキシーなどを発症するおそれがある。 - 牛乳たん白アレルギーを有する患者
[本剤は牛乳由来のたん白質が含まれているため、ショック、アナフィラキシーを引き起こすことがある。]
(解説) 牛乳たん白を含む経腸栄養剤を投与された患者に、アナフィラキシーショックを起こした例が報告されている。本剤は牛乳由来のたん白質を含んでいる。 - イレウスのある患者[消化管の通過障害がある。]
(解説)イレウスのある患者では、消化管の通過障害があるため、症状が悪化するおそれがある。 - 腸管の機能が残存していない患者[水、電解質、栄養素などが吸収されない。]
(解説) 腸管の機能が残存していない患者では、投与された水、電解質、栄養素などが吸収されずにそのまま排泄される。 - 高度の肝・腎障害のある患者
[肝性昏睡、高窒素血症などを起こすおそれがある。]
(解説) 高度の肝障害時にはたん白代謝が十分に行われない。場合によっては昏睡を誘発するおそれがある。また、高度の腎障害時には血中に尿素などが滞留するが、本剤の窒素源の投与により、この傾向が増大するおそれがある。 - 重症糖尿病などの糖代謝異常のある患者
[高血糖、高ケトン血症などを起こすおそれがある。]
(解説)重症糖尿病など、糖代謝異常が高度に亢進している場合、糖質(部分加水分解デンプン)を含む本剤の投与により高血糖、高ケトン血症などを起こすおそれがある。 - 先天性アミノ酸代謝異常の患者
[アシドーシス、嘔吐、意識障害などのアミノ酸代謝異常の症状が発現するおそれがある。]
(解説) アミノ酸代謝異常のある患者に、栄養学的にバランスのよい製剤を投与しても、十分に利用されないだけでなく、血中のアミノ酸インバランスなどから、副作用を生じるおそれがある。
慎重投与
- 短腸症候群の患者[下痢の増悪をきたすおそれがある。]
(解説)
腸管大量切除などで、残存小腸が50~70 cm以下になると、術後しばらく激しい水様性下痢に象徴されるような腸管機能不全が続く。
このような病態において高カロリー輸液のみで長期間管理すると消化管粘膜は次第に萎縮するため、経腸栄養が必要と考えられる。
しかしながら、短腸症候群の患者では、腸管大量切除などにより吸収面積が減少し、腸管内にある消化吸収されない栄養素により浸透圧性の下痢を起こすことがある。
また、回腸末端が大量に切除されている場合は胆汁酸の吸収障害が惹起され、脂肪便による下痢を起こすことがある。
そのため、投与した栄養剤が有効に利用されないだけでなく、脱水など患者の状態を悪化させるおそれもある。
したがって、短腸症候群の患者では、状態をみながら少量から投与を開始し、投与量を徐々に増やすなどの注意が必要である。 - 急性膵炎の患者[膵炎が増悪するおそれがある。]
(解説)
本剤投与により膵液分泌を刺激し、病態を悪化させるおそれがある。 - 水分の補給に注意を要する下記患者
[下記の患者では水分バランスを失いやすい。]
1) 意識不明の患者
2) 口渇を訴えることのできない患者
3) 高熱を伴う患者
4) 重篤な下痢など著しい脱水症状の患者
(解説)
昏睡状態の患者、意識不明の患者及び口渇を訴えることのできない患者は、水分量が不足しても気付かない可能性があり、また、高熱を伴う患者は不感蒸泄と発汗によって、脱水状態、電解質異常に陥る可能性がある。 - 甲状腺機能低下症の患者[症状を悪化させるおそれがある。]
(解説)
甲状腺機能低下症の患者では、ヨウ素の過剰摂取により甲状腺ホルモンの合成が低下し、症状を悪化させるおそれがある。本剤にはヨウ素が配合されており、本剤のヨウ素配合量における甲状腺機能低下症の患者への影響は明らかではない。
重要な基本的注意
- 本剤を術後に投与する場合、胃、腸管の運動機能が回復し、水分の摂取が可能になったことを確認すること。
(解説)
術後においては、消化管の運動機能が低下していることが知られており、消化吸収が正常に行われない可能性がある。
したがって、術後の投与については、腸管の運動機能の回復を確認する必要がある。 - ビタミン、電解質及び微量元素の不足を生じる可能性があるので、必要に応じて補給すること。
(解説)
本剤は、長期にわたり、経口的食事摂取が困難な患者に投与される場合が多いため、ビタミン、電解質及び微量元素を補給するなどの注意が必要である。
相互作用
ワルファリンの作用が減弱することがある。
(解説)
一般にメナテトレノン(ビタミンK2)は、ワルファリンの作用に拮抗し、その作用を減弱すること
がある。本剤はメナテトレノンを24.99 μg/187.5 mL含有するため併用注意とした。
副作用
107例のうち副作用発現例数は11例(10.3%)、副作用発現件数は11件であった。
その内訳は
消化器系の副作用が、
下痢5件(4.7%)
軟便1件(0.9%)
便秘1件(0.9%)
であり、
その他は、
血中ナトリウム減少1件(0.9%)
血中ブドウ糖増加1件(0.9%)
血中トリグリセリド増加1件(0.9%)
白血球数増加1件(0.9%)であった。
(承認時、2019年)
重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー(頻度不明)があらわれることがある。